新入社員の思ひ出
新入社員を受け入れる企業では、教育係や配属先の上司は準備に追われます。新入社員教育では、教える側も教わる側も、体力的にも精神的にも、疲労困憊なのかと。
特に令和オジサン管理職にとっては、会社からセッティングされた、お偉いコンサルタント先生様の「新入社員教育の教育」なる、ありがたい講演でご教授いただくわけですが、自身の新入社員時代とは雲泥の差があることに、呆然とする担当者も多いようで。
講演の後、令和オジサンたちはロビーで缶コーヒーを飲みながら、
「俺らの教わったことって、全否定だったよね」
「なんで俺らの世代だけ、貧乏くじを引かなきゃならないのか」
「若い世代に任せた方がいいな…」
当時とは教育方針も大きく異なるため、天井を眺めて、深くため息をつくオジサンも。
そもそも「教えてもらった」と仰いますが、少なくとも令和オジサン世代は「見て覚える」に等しかったのではないのかと。当時は、コンプライアンスとか、セクシャルハラスメントとか、パワーハラスメントとか、人権侵害などは、黒毛和牛のヒレ肉以上に手の届かないどころか、皆無に近かった記憶。
特に地方の中小企業では、新入社員教育なんて、そんな大層なものは存在せず、丸腰のままオジサン社会に放り込まれて、毎日のように”意図的に仕組まれる”洗礼に、涙した方も少なくはないはず。
と言っても、当時の上司や先輩を責めるつもりはなく、彼ら自身も「見て覚える」世代で育ったわけですから、令和オジサンと同じように、過酷な時代を過ごしてきたのかと。
根性論と精神論
よくよく思い返してみると、新入社員教育や職場だけに限らず、学校の教育現場でも同じような状況であり、教師による体罰容認(パワハラ)教育は、平成に入ってもしばらく続いていたようで。
・機嫌が悪いと、授業をせずに怒鳴り散らして1時間説教。
・喉が渇いても絶対に水は飲むな。水を飲むやつは根性がない。
・全体責任でグラウンドを10周させ、気合が足らぬと全員ビンタ。
・鉄棒で逆上がりができないと、全生徒の前でできるまでやらせる。
・気に入らない生徒を体育館裏へ連れて行き、竹刀でシバキ上げる体育教師。
・髪やスカートが長いと、その場にてハサミでジョキジョキ。泣き叫ぶ女子生徒。
・水泳を「見て覚えろ」と言って、覚えられないと後ろから蹴られてプールにドボン。
・人格否定と罵倒を浴びせ、殴る蹴るの暴行指導で、北信〇大会の上位へ導いた名監督。
まあ、自分の物覚えがよければ、こんな仕打ちを受けなくても済んだのでしょうから、自業自得と言ったところでしょう。その教育の賜物か、朝登校すると窓ガラスが割られた職員室を拝めることも。小雪がちらつく中、わめき散らす体育教師と割られた窓ガラスを横目に、ほくそ笑んだ生徒も多かったのでは。
大人社会はまだマシ?
…とまあ、カビが生えた前置きの昔話だけで1,000文字を超えてしまいましたが、カビついでにもう少し。
そんな学校や体罰教師に比べれば、大人会社は少しマシでしたが、しかしながら、ブラック名言も思い出されます。
「給料をもらって教わるのだからありがたい」
店長のありがたいお言葉。今聞けば「はぁ?」と言いたくもなりますが、当時は常識。もっとも、親世代からも当たり前に言われていたことですが、車社会の田舎では、高校卒業まで自動車運転免許を取得するのが当然でしたから、お金を払って授業を受ける自動車学校と比較すると、当然のように思い込んでしまいます。
「俺は同じことは、三度までしか言わない」
初配属の主任のお言葉。今聞けば「はぁ?」と言いたくもなりますが、当時は「教えないから見て覚えろ」や「俺は一度しか言わない」派が大半だったので、それらと比較すれば、優しかったようです。
しかし、その主任。三度までと言いつつ、どうしても覚えられず、恐る恐る聞くと、
「もう、五回目だよ!最初にメモしていたよね?」
そう。聞いた項目ごと、正確にカウントしているのです。何度も聞くと当然、怒られますが、結局は教えてくれました。「歩く電卓」と言われ、ずば抜けた利益率をあげる人でした。
「一度聞いたらノートにメモしろ。メモしたら聞くな」
これも主任のお言葉でしたが、自分が何度も聞くものですから、形骸化させてしまいました。おそらく、ご本人が新入社員の時、言われた言葉だったのかもしれません。
「ボーっと仕事するな。細かいことはいちいち言わない。見て覚えろ」
結局のところ、ボーっと仕事している自分が何度も聞くものですから、教えてはくれますが、基本は見て覚えました。自分の場合は、腕も良く、歩留まり計算の長けた主任から教わったので恵まれていましたが、仮に逆タイプの場合、後に苦労することも多いようで、結果、我が社はチェーン店でありながら、店舗によって商品の品質にかなりの差はありました。
書き連ねてみると、自分の恩師は良い人でしたね。(怖かったけど)
覚えが悪くて、本当に申し訳ございませんでした。ご迷惑をおかけしました。
さて、令和オジサンが新入社員だった当時の、個人経営に近かったスーパーマーケットも成長し、地方でも中堅以上のチェーン店が主流となりました。働く従業員の質も、売り場に並ぶ商品の品質も、過去とは比べ物にならないほど、向上しているように見えます。
令和オジサンが過去の栄光にとらわれることなく、また、自分の恨みを晴らす格好の機会などと思い違いをせず、自らも新たな気持ちで、新入社員の育成にあたっていただけたら幸いです。