アルバイトから就職した学生
当時勤務していた店舗の夜間業務は、主にアルバイトの大学生や高校生が対応。自営業の方が夜間店長に就いている店舗もありましたが、構成としてはおおむね同様でした。
単にアルバイトと言っても、仕事に対する志はそれぞれ異なります。
多くは遊ぶお金が欲しいという理由でしたが、ほかにも、友達に誘われたとか、先にバイトをしていた彼女が心配で一緒に働いているとか、親が学費だけしか払えないので電車の定期代を稼いでいるとか、原付バイクを買うためとか。
中には「実家が商売をやっているので、修行のつもり」という学生も。さすがに士気が違って、下手な社員より大人の頭脳を持っていました。結果、高校から大学卒業までアルバイトを続けるという。
若い芽を摘んだのかもしれない件
アルバイトに対しては印象的な出来事が一つ。
アルバイト中にスーパーマーケットの仕事に魅せられ、そのまま就職したいという学生がいました。本来であれば、もろ手を挙げて喜ぶべきところを、店長以下、社員やパートさんまで「この仕事だけはやめておけ」と、本人に寄って集って言い聞かせます。もちろん、自分もその一人。
そもそも理系の学生だったこともあり、結果的にその種への就職が決まったのですが、アルバイト最終日のあの寂しそうな顔を、今でも思い出します。
夜間アルバイトの作業は基本、チェッカーや食品の品出しだったのですが、彼は合間を見て生鮮のバックヤードでパックや掃除を手伝ってくれました。単にお金を稼ぐためだけであれば、アルバイトの多くが嫌がる生鮮の仕事を、上長の許可を得てまで、果たして買って出るでしょうか。本人の中ではこの仕事に対して、何かを見出していたのではないかと。
店長以下、自分も含めて「本人にとっては良いことをした」と喜んでいましたし、長らく何の疑いも持たなかったのですが、最近になって、彼を送り出したことが本当に彼のためになったのだろうかと。
もし、実際に就職したら、アルバイトでは見えなかった不満もたくさん出てくるでしょう。人の入れ替わりも激しい業種です。家族のようにフレンドリーに接していた社員やパートさんたちも、時間の経過とともに退職や移動となって、アホな店長や頭のおかしい主任が移動してくるかもしれないし、その逆もあり、浮世離れした店長や頭のネジが3本外れた主任のいる店に自分が移動になるかもしれないし、古参パートさんにいじめられるかもしれないし、自分勝手なお客やクレイジーなクレーマーに毎日悩まされるかもしれないし、連休も取れずに毎日ヘトヘトになるし、万年人手不足のうえサービス残業ばかりでうんざりするし、その割に手取りは少ないと感じるかもしれないし、冬は足が冷えるのでモモヒキを穿かなきゃならないし、掃除の水は冷たいし、指はヒビ割れするし、冷凍庫も冷蔵庫もバックヤードは底冷えするし、売上と利益を取れなくて店長やバイヤーに散々、嫌味を言われる日もあるだろうし、朝は早いし夜は遅いし、ギョーザの皮が品切れして店長に怒られるかもしれないし、開店準備が間に合わなくてお客に文句を言われることもあるし、大雪でセンター便が遅れてガラガラな売り場でお客に怒られるかもしれないので、やっぱり言われたとおりに、この会社はやめておけばよかったと後悔する日が来るのかもしれない。
小さな子どもに、ろうそくの灯の熱さを教えるのに「熱いから触っちゃダメ」と、ただ厳しくいうのか、やけどをしない程度にサッと触らせるのがいいのか。
今思えば、嫌なことを経験するのも、本人にとって良かったのではないかと。最終的には、嫌になって辞めちゃうのかもしれないし、遠回りな人生を送るかもしれない。
あの頃は店長も社員もパートさんも、もちろん自分も若かったけれど、今の自分があの時に戻れたら、なんて話すのだろうか。
単なる腰かけだった件
一方、平日夕方からのシフトで鮮魚部に就いていた大学生アルバイト。刺身も切れて、包丁も研げるほどの器用さもあり、繁忙期の週末には終日、呼ばれておりました。その後、社員に誘われて就職したのですが、なぜか初配属は畜産部となります。
もちろん、スライスや切り身の商品づくりは丁寧で、努力だけでは得られない天性とセンスを感じるほど。繁忙期には鮮魚部に応援に入っていました。理系の学生だったこともあり、数字にも明るい。
将来が楽しみだと、噂されていた彼。
ある日、彼の店に寄って、店舗裏で缶コーヒーを飲みながら発した言葉に昇天。
「もう数年したら、起業するつもりです」
「そう長くやる仕事ではないので」
要は本業を立ち上げるまでの腰掛だという。
少し時間はかかりましたが、言葉通りに起業しました。
同じアルバイトでも、いろいろな人生があるなぁ。上には上があるなぁと。
そろそろ卒業シーズン。
引継ぎのアルバイト確保に、腐心している店舗も多いと察します。アルバイトからそのまま就職してもらえる環境づくり。かなり難しいこともあり、永遠のテーマと化してしまった感はあります。