ひとりごと

とある焼き鳥屋さんのお話

写真はイメージです。

スーパーマーケット店頭で見かける、焼き鳥の移動販売。店舗によっては週末に限らず、平日でも営業している場合もありますが、何度見ても「ああ、これがスーパーの日常だなぁ」と、勝手に思いにふけっております。多くはフランチャイズ経営で個人事業主によって営まれているそうですが、それぞれの店主にもカラーがあって、その魅力に惹きつけられることも。

行きつけの店舗前にも週末、焼き鳥屋さんがいい匂いを漂わせています。個人的には、毎月買うので勝手に常連気分です。(予算があれば、毎週と言いたいところですが)

しかしながら、2020年2月から広まった例の渦。2月末に買った際はいつもの雰囲気でしたが、3月末には状況が変わっていて、お兄さんはマスク姿で汗だくになって一生懸命、焼き鳥を焼いています。プレートの上には焼き鳥の山と、注文番号札の付いた袋がいくつも天井にぶら下がっている景色。

「あ!いらっしゃい」
「いやぁ…例の渦、大変ですね。お店休みかと思って」

「2月頃まではいつも通りでしたけど、3月に入ってから急に忙しくなっちゃって」
「あ、そうか。テイクアウトになりますもんね」

「北海道で緊急事態宣言が出た後ですかね。遠く離れた新潟なのに驚きましたよ。夕方前に品切れさせたことなんてなかったから、お客さんに申し訳なくて。今は(材料を)積めるだけ積んで来ていますから、大丈夫ですよ!」

「それにしても、すごい注文ですね」
「おかげさまで、朝からずっと立ちっぱなしで焼いていますよ」

「あまり無理して倒れないでくださいね」
「いやぁ。仕事がないよりはいいですよ…」

あの、決して広くはない空間で、マスク姿で汗だくになって、焼き鳥を焼いている姿は本当に頭の下がる思いですが、このお兄さん、どんなに暑い真夏でも、吹雪く真冬でも、この威勢と笑顔を振りまいているのは、単に客向けではない、彼の内面から湧き出ているものではないのかと思わせるほどです。すごいですよね。だって、材料を仕込んで、車に載せて店まで行って、立ちっぱなしで焼き鳥を焼いて、清算して、それを一人でやるのですよ。まさに働く男です。


「いやぁ。仕事がないよりはいいですよ…」


そういえば、もっともっと昔に、同じようなフレーズを聞いたことがあります。

当時、勤めていた店舗でも、定期的に移動販売の焼き鳥屋さんがやってきました。年齢を重ねた物静かな男性でしたが、固定のファンも多かったと記憶しています。

「あのおじさん。ああ見えて結構売るのよ」
売上にシビアな、あのお局主任(食品)も一目置くおじさん。
(ああ見えて…は失礼だろ、と思いつつ)

実際どのように売るのか、勉強しようと観察していると、言葉では言い表せない、物静かな中でも湧き出る、柔らかい雰囲気とでも言いましょうか。声を張って売り込む形態ではないと思われるので、当然と言えば当然なのかもしれませんし、売れる大前提は「仕込みと焼きの腕が良く、味も良いから」に尽きるわけですが、対面販売である以上、それだけでは測れないところもあるのかと。

時代も時代だったのかもしれませんが、疲れた中年男性客(これも失礼ですね)も多く、彼らと人生論を語りながら、焼き鳥を焼く姿は印象的でした。もしかしたら、同じ苦労をしているオヤジが焼いた焼き鳥を肴に、疲れた中年オヤジが茶の間で野球中継を見ながら、日本酒を冷で一杯。某公共放送のドキュメント番組にでも取り上げられそうなシーンではありますが、今なら居酒屋テイクアウトみたいな感じでしょうか。

また、フランチャイズのため、基本メニューは決められているのですが、若干のカスタムは可能なようで、自ら本部に提案した開発メニューを売っている時も。開発メニュー以外にも、クリスマスなどのパーティーや、地域のお祭り時期などに合わせた販売アイデアも実施。単に鶏肉と言ってしまえばそれまでですが、見せ方や売り方によって、いつもと同じ串プラス鶏料理でいかに購買意欲をそそるかは、食品を販売する人間にとって、とても勉強になりました。

いくら店員が商売人であっても、会社で雇われている立場上、「売れなかったら生活が成り立たない」局面はあまりなく、そこまでの緊張感をもった企画提案は少ないのですが、労働と収入が直結している彼らの感性は、研ぎ澄まされている印象でした。


客のピークも過ぎた20時過ぎになると、売上計算のため事務所にいらっしゃいます。
「いやぁ。今日は暑かったですね」
「ビールが売れていたみたいだね」

「やっぱり、ビールと言えば焼き鳥ですよね」
「結構、砂肝が動いていたけど、足りてよかったよ」

「こう忙しいと、もう大変ですよね」
「仕事があるってことは、必要とされているってことだから…。仕事がないよりはいいよ…」

当時は何気に聞き流していた言葉でしたが、時を重ねてようやく意味がわかってきたような。ここに2人の経歴は書きませんが、やはり起業へ至る道のりはそう簡単ではなかったようで、2人それぞれの人生にはさまざまな山や谷があり、時代は変わっても共感できるところは同じなのかと。


季節は夏。
皆さんの店頭でも、青空の猛暑の中、お兄さんやおじさんが一生懸命、焼き鳥を焼いている景色があるかもしれません。

「今日は暑いですね!儲かりまっか」の一言だけでもよいのかもしれませんが、 単に涼しい店内から眺めているだけではなく、彼らから学ぶべきことをどん欲に引き出すのもありなのかと。研修やマニュアルからだけでは学べない知識や人生観も、たくさん持ち合わせていらっしゃるかと。

学べるところは学んで、一歩でも本当の商売人に、近づいていただきたいです。

j-rakuda

管理人teru 新潟のスーパーマーケット情報サイトやってます。 PC:http://www.j-rakuda.com/