休日も忙しい担当者
万年人手不足の流通業。中核と言われる一定規模の企業であれば、ある程度の福利厚生も整っていると見られますが、有給休暇の消化どころか、公休の消化すらままならない現場も未だ存在するようです。私も今思えば「ブラックな環境」で働いていましたが、当時は情報に満ち溢れている時代ではなく、社会の酸いも甘いも知らなかった学生が、いきなり大人の社会に放り込まれて、何も疑問に思わなかった一人。振り返ってみると、かなり無理な働き方をしており、接客の楽しさが1割ほどで、苦痛と疲労が9割だったのではと。
上司からは「スーパーマーケットに限らず、仕事とはすべてそんなもので、他の業種に行っても同じだ」と言われていましたが、実際は同じではなく、単なるマインドコントロールだったのですが。そもそも、上司は学生時代のアルバイトも流通業でしたから、他の業種なんて知らなかったのです。
自宅の玄関先から売り場指示
他の業界と大きく異なっていたのは、取り扱う品物が生鮮品のため、公休日も在庫が気になり、頭から離れないことでした。現在でも悩みは同じようで、とあるお知り合いの担当者は、休日の早朝にもかかわらず、スマホ片手に自宅の玄関先で部下と格闘しています。
「その2ケース、出しちゃっていいからさ。横のスペース全部広げちゃって、送りこみの分を突っ込んじゃってよ」
「おはようございます。お仕事、大変ですねぇ」
「あ!おはようございます。いやぁ、急に本部からの送り込みがあったらしくて…」
私の素性を知っているので、そんな会話となりますが、休暇どころではないのでは?
「昔は(公休日でも)朝だけ店に行って、売り場づくりを指示して帰ってきたけど、今は携帯があるからずいぶん楽ですよ」
見せてもらった彼のスマホには、押し付けられた送り込まれた入荷商品の写真が添付されています。
「おお。リモートワークじゃないですか」
「いえ…イレギュラーの時だけですよ。あとは、風邪かぎっくり腰で倒れた時とか」
昔はぎっくり腰でも這って行きましたが(今もそうかもしれませんが)、少しは環境も改善されているのですね…って感心しましたが、あくまで個人スマホでのやりとりのため、写真は確認後に削除して残さないそうです。
以前、業界のリモートワークについては「正直、さらなる激務につながる危険性もはらんでいるようにも見えるので、中途半端な導入はおすすめしない」と書きましたが、社外秘など情報漏洩とならない範囲で、自主的なリモートワークも進んでいるようです。(休日であれば、リモートでも何でもないのですが)
スレスレの競合店調査
競合店での価格や売り場調査は、手法によって違法となる場合もありますが、一昔前の調査はひたすら売り場で暗記してメモ。財力のある管理職クラスは、ボイスレコーダーを忍ばせて、小声で録音など。現在はスマートフォンの活用でかなり楽になったとの話を聞きますが、基本的に店内撮影は禁止されている店舗も多く、調査目的での器具使用の禁止告知を店頭に貼りだしているディスカウントストアなどもあります。
仮に違法ではない範囲で知り得た情報であっても、録音音声はテキストにしてデータ化しなければいけません。流通業の管理職には、「俺はITに弱いアナログ人間」と自虐している人も少なくないようですが、中にはスマホアプリを活用して音声からテキスト変換している人も。サクッと整えて、調査書を作成するという。ただ、勤務日は作業で忙しいので、公休日を利用して競合店を回り、調査に勤しむ姿もあるようで。
同期の売り場クリニック
こう書くと聞こえはいいのですが、たまに取れた休みを利用して、気の合う同期社員の店舗へふらりと遊びに行ったりすることも。平日の飾らない売り場を見たいので、もちろんアポなし臨店。同期が不在の場合もありますが、しばらく会っていなかった懐かしい面々との再会も。相手は勤務中のため、会話は最低限に控えますが、日ごろの愚痴を話すなど、ちょっとしたストレス発散に。お知り合いの担当者も、公休日に同期の店舗へ行ってきた話をしていましたが、時代が変わっても共感できる点は多いのかと。
同じチェーン店でも、地域が違えば商品づくりや量目、売れ筋も違うので、競合店クリニックとはまた違う刺激を受けることも。もっとも、自社店舗の売り場クリニックやレポートは社内で共有されてはいますが、作りこんだ週末の美しい売り場がほとんどで、素の売り場を見るにはやはり足を運ぶ必要はあるようです。
結局、善意の無償奉仕(なのかもしれない)
よほどのブラック環境で長時間、働き詰めでない限り、公休日は一日中寝ているような繊細な人間は長続きしないのかもしれません。車の中でも座ったままでもすぐに眠れるし、お酒を飲んでガーッと寝てしまえば、疲れが吹っ飛んでしまう人。公休日を活用して、売り場クリニックに競合店調査。なんだかんだ愚痴を言いつつも、「良い加減」に程よく力を抜いて、何十年も勤務しているのであれば、ある意味、天職なのかもしれません。
「なんだそれ?無償奉仕を推奨するな」と、突っ込まれそうですけど。
今日も売り場を駆け回っている業界人に感謝です。